STORY. 9

「マキバオー」で描かれた船橋競馬・サトミアマゾンの強さ(1)

文・原山 実子

「週刊少年ジャンプ」1994年11月28日号
巻頭を飾った作品は連載初回「みどりのマキバオー」でした。
当時その設定に驚かされた読者、競馬ファンは多かったと思います。
100キロほどの小柄な白毛のサラブレッド、弱虫泣き虫ですが、レースで発揮されるのは凄まじい勝負根性。人と馬が会話をする「ファンタジー」な世界のはずなのに、読み進むにつれ、当時すでに競馬ファンだった私は「マキバオー」の世界にぐいぐいと引き込まれて行きました。

数多くの個性的な馬たちが、迫力あるレースシーンで鎬を削る中、
一際印象に強く残る馬がいました。船橋競馬で10戦10勝、中央のクラシック路線に挑んで行った「サトミアマゾン」です。
「みどりのマキバオー」に続く「たいようのマキバオー」では、息子の「アマゾンスピリット」がマキバオーたちの前に圧倒的な存在感で立ちはだかります。

中央競馬を描いた「みどりのマキバオー」に何故、地方所属馬、船橋競馬の馬が登場したのでしょうか。

「Fの系譜」

今回は、年月を経て未だに読まれ、愛される「みどりのマキバオー」「たいようのマキバオー」「たいようのマキバオーW」の作者、つの丸さんに、サトミアマゾン、そして船橋競馬への想いを伺いました。

― 率直に伺います。何故、中央競馬が舞台の「みどりのマキバオー」に地方馬、それも船橋競馬の馬を登場させようと思われたのでしょう

「簡単な話なんで、がっかりさせちゃうかもしれないんですが。
僕が千葉県出身で、当時の仕事場が、マキバオーの前の連載は下総中山、マキバオーの時はその隣の本八幡というところにありました。
競馬の取材がしやすいし、舞台にしたらいろいろ都合がいいじゃないですか。
昔はGoogleで調べたりできないので取材しないと描けないし、近場で取材ができないと後々困ると思って。それで、船橋を選んで描くことにしました。」

― 地方競馬を描こうと思われたきっかけは何でしたか?

「交流レースが1995年から始まったので、単純に『それは入れなきゃいけないな』と思ったのと、地方競馬の要素が入ると、ドラマ的にも馬の想いを描きやすいだろうなと思いました」

― サトミアマゾンを描く時に、モデルにした、あるいはイメージした馬はいましたか?

「アマゾンオペラですかね。その頃強かった馬で、中央にもヒシアマゾンがいて、“アマゾン”という名前はイイな、と思ったので。
『みどりのマキバオー』の時から、登場するキャラクターには戦国時代の大名から名前を付けています。関西の馬には関西の大名を。千葉に『里見家』があったので、それで名前を『サトミアマゾン』にしました。」

― サトミアマゾンは父ミルジョージ、母アマゾンフルーツ。
「俺はここ(船橋)の馬だ…」
「強い船橋をアピールしてここに人を集める」
「2着だろうがしんがりだろうが負けは負け」
ファンの間で「名言製造マシーン」といわれるくらい、心に残るシーンや名セリフが多い馬です。


「サトミアマゾンは描きやすかったですね。アマゾンオペラはライブリマウントにやられていたり、交流でギリギリ勝てなかったり、華やかさも中央と違うし…自分がその立場だったら、さぞ悔しかろうという思いがありました。
当時、ダートのGIが無かったじゃないですか。アマゾンオペラはJRAでオールカマーを走ったと思うんですが、当時は地方馬がJRAで勝つためには芝を走らなければいけない時代だったんですよね。名馬になるためには芝でGI馬にならない…。そういうことを考えると、地方馬には考えただけで怒りがこみあげてくるような、さぞ燃え滾るものがあるだろうなと。
自分が馬だったらどう思うかな、というのがありました。」

― 今、お話を伺っていて思ったのですが、サトミアマゾンは先生の中で思い入れが強い馬ですか?

「思い入れが強いですね、乗り移りやすかったというか。ファンも多かったですよね、サトミアマゾンは」

― サトミアマゾンの父はミルジョージ。作中唯一、実在の種牡馬ですね

「あれはみんな謎に思ってますよね。多分、何かのミスなんです。
実名使っちゃうと怒られるのかなと、全部名前を変えなきゃいけないなと思っていて、多分変えたはずなんですけど…そのまま載っちゃったという感じなんです」

― 父をミルジョージに設定したのは、産駒に地方競馬で活躍馬が出ていたからですか?

「そうですね。僕の場合は1頭をイメージしてそれを馬に描くということはなくて、地方や中央限らず、いろんな物語を自分の中でシャッフルして作り上げるんです。これもキャラクターとして父のイメージが反映されることはないんですけど、地方競馬のいろんなものを話に入れたいなと思っていました」

― ミルジョージは、作中で馬名を変えたらどんな名前になっていたんでしょう

「変えたはずなんですが…覚えてないです(笑)」

前半はアマゾンスピリットが主役の物語でいいと思っていたんです

― 「みどりのマキバオー」の続編「たいようのマキバオー」では、
父と同じく船橋競馬所属、サトミアマゾンの息子のアマゾンスピリットがマキバオーたちの前に立ちはだかります。
父とは違う路線を歩み、カリスマ性を最後まで発揮していました。


「アマゾンスピリットも、入り込みやすいというか、描きやすかったというのはありますね。
スポコンものとして描いていると、燃え滾る思いというのは、あの立ち位置では1番強いだろうなって思っていました。」

― 最初は父の影を嫌うアマゾンスピリットにも、父と同じ、船橋に人を集めるんだ、船橋を背負って立つんだ、という強い思いがあって、やがてそこから解放されるというところがすごく好きでした。

「僕もキャラクターになりきって、入り込んで描いていたときに思ったんですが、だいぶ意地をはって、片意地はって強がって、もっと本心よりも自分を強く見せたい、かなり強がって頑張って走っていた馬だと思うんですよ、サトミアマゾンも、アマゾンスピリットも。なので、アマゾンスピリットが、その責任の重さとそこから解放される話、そういうものを描きたいなと思いました。
『たいよう』はマキバオーが中心で主人公なんですが、本質的なところで言うと、特に前半はアマゾンスピリットが主役の物語でいいと思っていたんですよ。 自分が彼の立場になり切った時に、ダートレースの体系とかを考えて、自分がカッカしてしまうくらい、いろいろ不満を持って…
勝っても勝っても芝で活躍する馬との格差は縮まらない、その中でも卑屈にならず戦っていく気持ちになる。
自分で物語を作ったというよりは、自分が物語に入って物語の流れに沿って、この時はこうだなっていうのが自然に出てきました。
僕自身虐げられて生きてきたわけではないんですけど、アマゾンを描きながらそういう思いが強かったですね。キャラクターに同調していました。」

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Writer

フリーアナウンサー 原山 実子

競馬関係、通販番組などでお仕事をさせていただいている、フリーのアナウンサーです。最近まで、リリアン原山でした。