STORY. 10

「マキバオー」で描かれた船橋競馬・サトミアマゾンの強さ(2)

文・原山 実子

1994年に連載が始まった「みどりのマキバオー」
当時「ドラゴンボール」「キャプテン翼」「ジョジョの奇妙な冒険」「スラムダンク」…他にも多数の人気の作品が並ぶ群雄割拠の週刊少年ジャンプの中で、競馬漫画が読者の心をつかみ、1996年にはアニメ化されました。
「みどりのマキバオー」に登場する、孤高の存在として読者の心をつかんで離さない、船橋所属のサトミアマゾン。
今回のインタビューでは、つの丸先生はサトミアマゾンを描きながら、船橋競馬にどのような思いをお持ちだったのかを伺いました。

描きながらレースの勝敗が決まっていない

1998年、週刊少年ジャンプ「みどりのマキバオー」の連載が終了。
その翌年1999年。GI・フェブラリーステークスを水沢所属のメイセイオペラが勝利しました。奇しくもサトミアマゾンのモデルともいえるアマゾンオペラの父と同じ「グランドオペラ」の産駒が、地方所属馬初の中央競馬GI勝ち馬となった瞬間でした。


「テレビで観戦していました。信じられないと思いましたね。地方馬が勝つのにもっと時間がかかると思っていたので。
GIになってわりとすぐだったじゃないですか。もっと苦労してGIを勝つのかと思っていたんです。
船橋の馬は中央に挑んでいくイメージは強いですよ、フリオーソとか。
『たいようのマキバオー』は、ちょうど書き始めた頃にフリオーソが強かったので、だいぶ思い入れがあったし、モデルというわけではないですがイメージはありましたね。ギリギリやられている感じはあるんですけど、そうそうたるメンバーの中央馬が束でかかってきて、それを1人で立ち向かっている感じがあったのですごく応援していました。」

つの丸先生は「みどりのマキバオー」の連載がスタートすると、取材に行く時間などは全くなく、1週間丸々使っても「満足いくまで描くならもうちょっとかかる」ということの連続。時間があればもっと描きたかった、と思うこともしばしば、そのくらい週刊の連載は過酷だったそうです。

― 1つのレースを描くのに、大体何話くらいをイメージされていたのでしょうか。

「全然決めてないです。ぼんやりと、あんまり長くなっても…このレースではこのくらい…というのはあるんですけど。勝敗も決まってなかったりするので。」

― 驚きました!レース結果があって、ストーリーを描き進めていらっしゃるのかと思っていました。

「決まってないというか…多分こうなんだろうな、というのを思いながら描いていくうちに、変わってきちゃうことがあるんですよ。
水島新司さんが『ドカベン』を描いている時も、描きながら『あ、こいつ打っちゃった』みたいな話があるので。多分、漫画家さんはそういうのが多いと思います。僕も描きながら『あ、ここでこいつ行っちゃったか』という感じで『じゃ、こういっちゃうな』『あー、次どうするんだろう』…って思いながら描いていました。

― サトミアマゾンが勝つことがあったかもしれないんですか?

「勝つことはなかったと思うんですが、アマゾンに関してはやっぱり不屈というか、あんまり栄光を勝ち取ってほしくないというのがありました。そこに描きたいものがあったので…勝つというのはなかったと思います。
負けても負けても、というのが描きたかったので。」

「マキバオー」「サトミアマゾン」がいる世界

― マキバオーを描いていた頃に、実際の競馬で印象に残っていること等は何かありますか?

「ほとんどないです。描く時はレース体系からなにから、結構がっちり世界を作っているんですよ、僕の中で。このレースにはこの馬が出る、この馬が出る次のレースにはこの馬が、前のレースはこの馬が出ていた…
描いていない所でも、ローテーションは全部ある程度組んでいるので
それを頭に入れていると、リアルの馬が入る余地が無いというか、入れると邪魔になってしまうんです。」

― 特に『たいよう』は本当に大変だったんですよね?

「『みどり』の時は、クラシックってレースがわかりやすいんですけど
ダートのレース体系はバラバラなので、それであちこちの馬が、誰がどこに出て…と描いていて、つじつまが合わなくなるのも嫌なので…
『あいつはあのレースに出てたよな』って把握し続けるのがすごく大変だったんですよね。
だから、あんまり実際の競馬をチェックしないで、日常生活もあまり世の中の出来事を感知しないというか、マンガの世界で生きている人みたいな状態でした。
そうしないと、例えば、ご飯食べる時に家に帰って奥さんと喋ったりすると、
現実に戻っちゃうじゃないですか。休憩が終わって『はい!描きます!』となった時に、ここからまたこの世界に入り込んでいくのが大変なんですよ。
なので、その世界の住人のままご飯を食べて、あんまり会話もせず。
作品に向き合っている時は、ずっとその中にいたい。切り替えが面倒なんです。
そういう作家さん多いんじゃないかな、外に一歩も出ない人とか。」

― そういう「熱」を持って描かれた世界だからこそ、読んでいる私たちもマキバオーの世界に没頭するんだと思います。
個人的な話ですが、私は軽い気持ちでサッと読もうとする感じで「マキバオー」は読めなくて…
読む時はしっかり時間を取って、入り込んで読みたいと思う作品です。


「意外とちゃらんぽらんに見えて、意外としっかり、きっちり世界作ってあるんですよ(笑) 終わったあと、自分で内容をそんなに覚えてないんですよ。
流れがいろいろあって、長いし、あそこがああだったとかあんまり覚えてなくて。描いている間の自分はそこの住人なので把握してるんですけど、今はこっちの世界に戻ってきちゃったのであんまり細かいところを覚えてなかったりするんですよ。変な仕事ですよね(笑)」

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Writer

フリーアナウンサー 原山 実子

競馬関係、通販番組などでお仕事をさせていただいている、フリーのアナウンサーです。最近まで、リリアン原山でした。