STORY. 2
2021JDDキャッスルトップ&仲野 光馬騎手
文・原山 実子
協力・渋谷 信博調教師/仲野 光馬騎手/城市 幸太厩務員
私が地方競馬を見始めた頃、船橋競馬には石崎隆之騎手、桑島孝春騎手、張田京騎手が、調教師には出川三兄弟、川島正行先生、佐藤賢二先生、
岡林光浩先生…
さらに、あげればきりがないほどの活躍馬がいて、初心者の私にもわかりやすい「人も馬も層が厚いところ」でした。
帝王賞をマキバスナイパーが勝った瞬間の歓声と場内の熱い空気。小雪舞う東京大賞典でわき起こったアジュディミツオーへの賞賛の拍手。
JRA勢を負かしに行った船橋の馬たちの活躍は、今でも強く記憶に残っています。
船橋競馬の「強さ」が垣間見えるレースの一つ、3歳夏のダート王者決定戦、ジャパンダートダービー(以下JDD)。
1999年の第一回は大井競馬所属のオリオンザサンクスが勝利。その後今年のノットゥルノまで24回行われJRA所属馬が優勢な中、
歴代勝ち馬の中に名を連ねる地方所属馬は全て船橋競馬の所属馬です。
トーシンブリザード、フリオーソ、マグニフィカ、ヒガシウィルウイン。そして昨年、無観客の大井競馬場で、あっと驚く鮮やかな逃げ切り勝ちを
収めたキャッスルトップ。単勝129.5倍、12番人気の馬が逃げ切ったJDDでしたが、実は私は「船橋の馬なら、人気薄の勝利もあり得るのではないか」
と思いながらレースを観ていました。おそらく長年の南関ファン、地方競馬ファンの皆さんの中には、
同じ思いの方もたくさんいたことでしょう。
「Fの系譜」今回は、昨年のJDDを勝ったキャッスルトップの関係者の言葉から「船橋の強さ」の理由を探っていきます。
写真:2021年ジャパンダートダービー(JpnⅠ) 優勝馬キャッスルトップ
「調教師になった時に“いつか父を超えよう”という目標を立てたんですよ。まずは重賞2勝。それを目標にやってきて、
叶ったのがテイエムヨカドーの勝利でした。」父・渋谷信隆調教師のもと、厩務員、調教師補佐を経て、渋谷信博調教師が厩舎を開業したのは2005年。
最初の重賞勝ちは、開業5年目の2010年、テイエムヨカドーで勝利した荒尾競馬場の重賞・霧島賞でした。父テイエムオペラオー、
母テイエムシンデレラ、竹園正継オーナーの思いがこもった「テイエム血統」でのこの勝利は、北関東から船橋へ移籍後の森泰斗騎手にとって、
初めての重賞タイトルでもありました。渋谷厩舎2度目の重賞勝ち馬も、2011年大井競馬場の東京シンデレラマイルのテイエムヨカドー。
山田信大騎手(現調教師)を背に、豪快に直線の追い込みを決めました。
「正直言って、開業からの目標を達成して、さてこれからどうしたらいいんだろうって、ちょっと迷いみたいなものがあったんですよ。」
2015年に父が引退、次の目標は…と考えながら、それから10年近くを経て出会ったのがキャッスルトップでした。
渋谷調教師は初勝利まで9戦をかけたキャッスルトップに並々ならぬ素質を感じていたそうです。
そして担当厩務員・城市さんの強い要望もあり、挑むと決めた2021年JDD。
「2000mは未知数だったけど、父バンブーエールがJDD2着だったこともあって、距離延びても大丈夫と言う確信はありました。
ただ中央の一線級が相手。ちょっと前まで未勝利を走っていた馬がここまでよくなったとはいえ、あくまで挑戦者でした。」
写真:渋谷信博 調教師と仲野光馬 騎手
渋谷調教師、厩務員、関係者の予想、そして望み通り、かつての船橋の名馬、マグニフィカ、トーシンブリザードと同じく、
大井の2000mをキャッスルトップは鮮やかに逃げ切りました。
「競馬の格言で『単騎の逃げ馬は恐ろしい』というのがあるけど正にそれで、競馬って本当に面白いと思った。こんな楽しいことないなって。
他のインタビューでも言っているけど、やっぱり光馬(仲野光馬騎手)で行ったのがよかった。キャッスルトップの普段の調教は光馬がやっています。
普段の調教がよければ競馬に結び付くんです。」あの勝利から1年。渋谷調教師は“何故JDDを勝つことができたのでしょうか”という私の問いに、
こう答えました。「勝つには努力も運も要る、最後は競馬の神様が味方してくれたと思っています。
目標、夢は口に出したほうがいい。そう思いました。」